原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO

スティングやポール・サイモンなど数々のカリスマと共演を重ねてきた"トランペット界の貴公子"、全米ジャズ・チャートの上位常連にしてグラミー・ウィナーでもあるクリス・ボッティが昨年に続いて来日しています。なんと今回は5日間10セットの連続公演。最終日は2月14日のヴァレンタイン・デイです。

今年のステージも本当に多彩です。癒しの要素たっぷりのクラシカル・クロスオーヴァーや映画音楽あり、絶品のバラードあり、ゴリゴリのストレート・ジャズあり、ファンクやラテン調あり、エスニック・ハード・ロックありと、次々と変わる音楽のムードは約90分間を一瞬のように感じさせてくれます。幅広い曲想を見事にこなすミュージシャンの卓越した技巧にも感嘆させられるばかりです。

スーツをばっちり着込んだボッティはハイノートやミュート・プレイを混ぜながらトランペットを吹きまくり、ユーモラスなMCでも会場を沸かせます。ヴォーカルは前回と同じくサイ・スミスとラファエル・モラスのふたり。サイはマライア・キャリーばりの超高音を織り交ぜながら縦横無尽に歌いまくり、モラスはオペラへの深い造詣を感じさせる熱唱で存在感を印象付けました。ドラムのリー・ピアソンは、名ジャズ・ピアノ奏者ハンク・ジョーンズのバンドでも活動した逸材。ドラム・ソロでは途中、立ち上がりながら熱演し、視覚的にも絶大なインパクトを与えます。

その他のメンバーは前回と入れ替わっています。ヴァイオリンのサンディ・キャメロンは繊細と豪快の双方を併せ持つ、まさにこのバンドにふさわしい奏者といえましょう。弾き終わった後に弓を持った右手を高く掲げるポーズも実にかっこいいです。やはり女性ミュージシャンであるレイチェル・エックロスは、キーボードでストリングスやオルガンの音を奏でて絶妙なバックグラウンドを提供します。ウルグアイ出身のレオナルド・アムエドは、イヴァン・リンスからも絶大な信頼を得るギタリスト。アコースティックではあくまで抒情的に、エレクトリックでは"泣き"のフレーズを連発して迫ります。ベースのレジー・ハミルトンはニューヨーク生まれで現在はロサンゼルスを拠点に活躍中。エレクトリックもアコースティックも兼ねる名手ですが、ボッティのバンドではアコースティック中心に演奏しています。ピチカート（指弾き）とスキャット・ヴォーカルのユニゾンで大きな拍手を集めていました。

前回テイラー・アイグスティが担当していたピアノのパートは、ジェフリー・キーザーに替わりました。10代の頃からプロとして活動し、ウェイン・ショーターやケニー・ギャレットを輩出した伝説のユニット"アート・ブレイキー＆ジャズ・メッセンジャーズ"の最後のピアニストとしても注目を集めた奏者です。ボッティとのデュオ「My Funny Valentine」では、一部でプリペアード奏法（ピアノの弦の余韻を抑え、琴のような音を出す）を用いてトランペットと鮮烈な音の対話を繰り広げました。

他の曲目は「Emmanuel」、「Blue In Green」、「The Very Thought Of You」、「Kashmir」、「Time To Say Goodbye」等。聴かせて、見せて、魅了して、徹底的に楽しませる"クリス・ボッティ一座"の演奏にひたりながら、最高のヴァレンタイン・シーズンをお過ごしください！
(原田 2018 2.11）

Photo by Takuo Sato